鉢植右から3番目
夜の道を前をみて歩きながら、そのままでヤツはボソッと言う。
「・・・別に、辛いほどじゃない」
いや、辛かったはずだ。とくに、ピーマンの肉詰めなんかは。もろピーマンでしょ、あれ。
私は食い下がる。
「でも嫌いなんでしょ?」
「好きではない」
「言えば入れなかったのに」
「・・・せっかく作ってくれてるから」
私は思わず目を瞬いた。
家事は基本的には折半で、食事だけは私が作るって、決めたことなのだ。恋人ではない。これが嫌いだから入れないでとか、これ食べられないなんて言葉やそれを残したりすることで私は傷付いたりしない。だからそんなこと気にすることないのに・・・。
「――――――これからは、少なめにします」
「・・・別にいい。好きにやってくれたらそれで」
前を歩く男の背中を見詰めた。背が高い。真っ直ぐに、スタスタと歩いていく。だけど私がここで転んだら、ため息をつきながらでも戻って来て手を出し助けてくれるのだろうな、と思った。
面倒臭せーと言いながら。
つい、綻ぶ口元に気付いて私は動揺した。
少しずつ判ってきた、漆原大地という男。私は少しずつ、彼を気に入りだしたのかも―――――――
夜の風は、夏前の匂いがした。