鉢植右から3番目
契約結婚してから身辺の整理に明け暮れていて、暫くここにも来てなかった。
チャリンと懐かしいベルの音をたてて、ドアを開ける。それと同時にコーヒーのいい香りが流れてきて、自動的に笑顔になった。
「いらっしゃいませ」
ここのアルバイト店員の大学生の男の子がキラキラした笑顔をむけてくれる。可愛い彼は童顔の小動物系イケメン。私はほっと小さく息を零した。
顔を覚えてくれているらしく、カウンターの中から美形の店長さんも会釈をくれる。嬉しくて、大きな笑顔になった。
「わお、格好いい」
隣で奈緒がぼそっと呟く。そうでしょそうでしょ、と何故か私が大いに自慢する。
さて、と席に着くなり、奈緒が身を乗り出してきた。
「それで?」
まずお水を一杯。そして、深呼吸。顔を上げて、おもむろに箇条書きで言った。
「結局奈緒が渡英してすぐに不倫がバレて泥沼になり、破局、そのまま退職、実家に帰ってフリーターかつニートをしていたけど、この4月に契約結婚をしたの」
奈緒は前の席で、無表情でぴたっと止まった。
「・・・・」
「奈緒?」
「・・・・いやいやいやいや。ちょっと待って、聞いた全てに質問があるわ」
私はその可愛い大学生バイトに本日の日替わりランチを二つ注文する。彼は畏まりました、とお辞儀をしてカウンターに向かった。