鉢植右から3番目
しばらく二人とも黙っていた。奈緒は私をじっと見たまま、華奢なコーヒーカップを指で弄っている。
そしてにやりと口元だけで笑った。
「――――――なんだ」
「うん?」
顔をあげた私の目に、にやにやと笑う奈緒の顔が飛び込んできた。
「都ったら、好きになりつつあるんじゃない、漆原のこと」
ぱかっと口を開けてしまった。
――――――――――・・・・・何だって??
帰り道、夕日に染まる町を歩きながら、奈緒に言われた言葉が頭の中を回っていた。
私がどうやらヤツを気に入り始めているらしいと奈緒は決めつけ、それなら偽装結婚を本当の結婚にすれば問題ないじゃん!と興奮し始めたのだ。
相手が漆原なのには別に何とも思ってないらしい。友達が傷つけられた男だということはすんなり過去の話に戻された。可哀想な瞳ちゃん。
そして、もう一緒に住んでるんだし、二人で暮らす生活は落ち着いた。あと、あんた達に足りないのはロマンスのみ!と拳を突き上げて、ヤツを、襲え、と指示したのだ。
「・・・は?」
美形の店長がいるこの店では出来るだけお澄まししていた私はそれを完全に忘れて、思いっきりの変顔で奈緒を見詰めた。
「何言い出すの?」
相変わらずニヤニヤしながら、奈緒は嬉しそうに言ったのだ。