鉢植右から3番目
第3章 近くて、遠い。
1、サルビアの花言葉。
玄関の前に来て、私は途方に暮れた。
「・・・あれえ・・・?ちょっとお~、マジで?」
鍵が、ない。
ガサゴソと鞄を漁る。この小さな鞄の中で頻繁にモノが無くなる不思議について一度真剣に考えたいが、今はそんな時じゃないよね。って、本当に見つからないぞ。落として来たのかなあ・・・まさか、私は大人だぞ。
自信がなくなって、最後のところは小さな呟きになってしまった。
はあ~っとため息をつく。
・・・ない。鍵、どっかに忘れてきた。ううーん、考えられるところはカフェか、駅前・・・でもあの広大な駅前を探せるとは思わないしなあ・・・。
「くっそう・・・」
どうしようかな。あそこまで戻るのに往復で1時間はかかるしな。あるって保障もない。ううーん。猫のキーホルダーとこの部屋の鍵が一個だけ。取りに行くべきか、否か。
もうちょっと待ってれば同居人が帰ってくるんだけど・・・。曜日を確認する。うん、今日は遅い日じゃない。
6月の終わりで寒くもないし、と私は決めた。
ヤツの帰りを待とう。晩ご飯が遅くなっちゃうけど、仕方ない。あと遅くても1時間くらいで戻ってくるだろうし。
そう決めると玄関前に座り込んで、郵便受けから取ってきた夕刊を読み始めた。怪しい女だったけど、ヤツが帰ってくるまでに誰も通りかからなかったから不審者扱いされずに済んだ。
太陽が完全に沈んだ夜の7時過ぎ、アパートの階段を上る靴音がしたから顔を上げると、ヤツが廊下をこっちに向かってくるところだった。