鉢植右から3番目


 家に入ってから、何故か突然緊張した。

 ・・・・いや、何故かとは言えないよね、判ってる。

 判ってるってば!わかーってる。うるせえな、判ってるの!

 意識したからだ。やつを性的対象として、意識したからだ。

 相手が意識しているかしてないかは関係ないと気付いた、と報告しておこう。違った。あれは、あくまでも自分の中だけなのだ。つまり、色気は自分で出すものでなく、相手が感知するものだってこと。

 そして私は今日会った友達の奈緒のせいで、何と、ヤツの、漆原大地の色気を発見してしまったのだ!

 おっどろき~。わおわお。今まで2ヶ月半以上一緒にいて、全く感じなかった色気を。首筋とか節だった手とか、口元とかに。男じゃん、あんた!と今気付いたというか。

 すごいぞ奈緒!あんたの影響だ、これは。

 やっば~・・・これ、やばいよね。だって、感じてるのはきっと私だけだ。そんな、なんて悲しいんでしょ・・・。くっ、泣けてくるぜい!

 まるで一人で百面相だった。十分痛い女だ。

 手を洗って台所に立つ。その間にもヤツの居所を背中で探しているのに気がついて沸騰したお湯を自分の頭にかけるべきか悩んだ。

 ばかばかばか!落ち着け私!そんなことをすれば当たり前だけど大やけどだぞ!救急車出動なんだぞ!深呼吸をして、とにかく、ご飯をつくることだ。

 一人でギクシャクしてレタスも大根も落っことした。バラバラに動く手や足が色んなところにぶつかっては音を立てる。

 ダイニングの机の上で何かの書類を見ていたやつが顔を上げる。

「――――――さっきから何一人で遊んでんだ?」

「遊んでない!」

 真っ赤になって言い返した。くそう、私一人で変なヤツだ。暑いぜ、何でよ、まだ6月なのに~!


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