鉢植右から3番目
窓の外ではもう夜だというのにまだセミの鳴き声が聞こえる。風があったので、エアコンはつけずに窓を開けっぱなしにしていた。
リクルートスーツを着てあっつい中駆け回った大学生の時の就活を思い出した。焦りはあの頃のほうが酷かった。だけども、あの頃はまだちゃんと私だった。
不倫は経験なかったし、自分は自分で親も若く、まだ未来にキラキラと希望があったなあ~・・・・。
ベッドに横向きに転がったまま、滲んでしまった目元をこする。
結婚という制度を使って、親に代わる扶養者を手に入れた。
だけど私は一人でベッドに転がって、悔しさに泣き掛けている。親なら慰めてくれるけど、仮面夫婦である相方には泣き付いたり出来ない。今日も面接ダメだった~って言えば話は聞いてくれるだろうけど、そこに慰めやアドバイスはない。勿論、抱きしめてもくれない。
ガードをゆるくしたり笑顔で接するようにしてみても相手には変化も見られないし、本当に、未だにただの同居人なのだ。
私は一体ここで何をしているんだろう・・・。
本格的に落ち込んできた。
ゆるゆると体を起こす。・・・だめだ、もう相手が帰ってくるじゃん。ご飯、作らなきゃ。
それでもそのままでぼーっとしてしまっていた。
チクタクと時計の針だけが音を刻む。真っ暗な部屋の中で私は呆けてそのリズムを聞いている。
静かなアパートの階段を上る靴音が聞こえた。それは一定の速度で近づいてきて、部屋の前で止まった。そして玄関の開く音。
・・・ああ、ヤツが帰ってきてしまった。
動かなきゃ。電気をつけて、お帰りと声をかけ、ご飯の支度を始めないと。