鉢植右から3番目
だけど、どうしても動けなかった。
ベッドの上にスーツ姿のまま座り込んで、私はヤツのたてる物音を聞いていた。
・・・ノック、するかな?家の中は真っ暗だったから、私が帰ってないと思っているかもしれない。だから、この部屋を確かめようとは思わないかもしれない。
だけど玄関の私の靴には気付いてくれていたら、もしかしたら――――――
でも30分経っても、ノックはされなかったし、ドアも開かなかった。
私が不在だと思ったらしい彼は、自分でご飯を作っているようだった。台所用品を使う音、冷蔵庫の開け閉めが、薄い壁越しに私の部屋にも響く。
・・・何、作ってるんだろう・・・。
私は動けないままでその音を聞いていた。
ベッドに座って、暗闇の中で。
気付かれない存在が悲しかった。
彼が私の靴に気付いていて、彼女は眠っているんだと思っていたとしても、それを確かめて貰えない私が寂しかった。
気にならないのかな。私がいなくても、きっとヤツには何ともないんだろうな。
そう思って胸が痛かった。
薄い壁一枚。
その向こうに、彼はいるのに。
声を出せば、ドアを開ければ届く距離に、彼はいるのに。
・・・なんて遠いんだろう。
全部が白く霞んでもの凄い勢いで遠のいていくみたいだ。
私だけをおいて。
開いた両目からはダラダラと生暖かい涙が落ちる。それだけが温度を持って、私という存在を主張する。