Smile
俺は彼女がピアノの鍵盤を優しく撫でているのを見て、彼女がピアノを弾いていたところを割り込んで入ってきてしまったことに気付いた。
「あっ、ごめん。俺、そろそろ行くから。邪魔してごめん」
そう言って扉のほうに歩きだした俺を、彼女の高くて可愛らしい声が引きとめた。
「待って!」
俺が振り向くと、彼女は急に恥ずかしそうにうつむいた。
「どうしたの?」
「あの……名前、聞いてもいい?」
彼女が小さな声でそう言った。
「名前………俺の?」
「うん」
「俺は、A組の澤本 蒼太。そっちは?」
「C組の、高野 すみれ」
傘に書いてあった“高野 すみれ”はやっぱり彼女のことだったんだ。