Smile
花柄の傘を片手に廊下を歩いていると、どこかからピアノの音が聞こえてきた。
その音は、俺が足を進めれば進めるほど大きくなっていく。
音楽室にたどり着くと、俺はドアの隙間から中を覗いた。
「あっ………」
そこでピアノを弾いていたのは、間違いなく昨日傘を貸してくれたあの彼女だった。
俺がそーっと扉を開けて中に入ると、急にピアノの音が止まった。
ピアノを弾いていた彼女は、びっくりしたようにこっちを見ている。
「あ……あのさ。昨日、傘ありがとう」
俺は歩いて彼女のいる方に歩いて行った。
「おかげで濡れずに済んだよ」
俺がそう言うと、彼女はふんわりと笑って言った。
「ううん。役にたててよかった」
彼女に傘を手渡すと、一瞬彼女の小さな手が俺の指に触れた。