紅いクチビル
『…奈津君、誰と電話してるの?』
電話の奥の方で聞こえるこの声は…愛莉ちゃんだ。
…名前呼びだし。
いつからそんなに親しくなったわけー!?
いや…でも、あたしも薺君とか名前呼びか…。
『あぁ…もう切るよ。』
もう切るよ?
もう切るの?
「ヤダヤダ、まだ話したい!」
『そもそもこれはおまえが言い出したんだろ。』
「うっ…」
確かに、そうだけど…。
『奈津君…ごめんね、お風呂先に入れてもらっちゃって。』
…はっ?
お風呂!?
なに先に入れてもらっちゃってって!
「もういい、奈津のバカ!!」
ブチッ
はぁぁ~……
「なにやってんだろ、あたし…」
…それから、どんどん奈津とあたしは離れていった。
電話もしなくなった。
気付けば、あたしが屋上に行かなきゃ奈津に会えなくなってた。
奈津から会いに来てくれることは、無かった。