紅いクチビル

「…なんのマネですか。」

「俺は感情を殺すことを“覚えろ”と教えたかったんだ。

常に感情を殺せとは言っていない。

仕事に差し障りのない程度なら、泣いていい。」

「…悲しく、ありません。」

この程度のことで。
恋人に信じてもらえなかったことで、悲しんでたら。

この先やっていけないだろう。

「強がるのはやめろ。
仕事でもそうやって強がる気か。

迷惑だ。」

「…強がってなんか、」

「調べはもうついてんだ。

幼い頃に親が死に、親戚をたらい回しにされて、迷惑をかけないようにするスキルが身についたんだろ。

だからお前は、自分や他人に大丈夫と言い聞かせて強がって、我慢する癖がついた。

違うか?」

…なにも、違わない。
どうしてこの人は、他人の事情をこんなに事細かに分かるんだ。

そんな記述、どこにもないのに。

「いいか。
この仕事は復讐依頼者と、復讐対象者のすべてを調べる。

そのデータを元に、当事者の感情や状況、周囲の目などを考察し、それに見合った復讐を代行するのが俺達の仕事だ。」

< 45 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop