紅いクチビル
「…なんのマネですか。」
「俺は感情を殺すことを“覚えろ”と教えたかったんだ。
常に感情を殺せとは言っていない。
仕事に差し障りのない程度なら、泣いていい。」
「…悲しく、ありません。」
この程度のことで。
恋人に信じてもらえなかったことで、悲しんでたら。
この先やっていけないだろう。
「強がるのはやめろ。
仕事でもそうやって強がる気か。
迷惑だ。」
「…強がってなんか、」
「調べはもうついてんだ。
幼い頃に親が死に、親戚をたらい回しにされて、迷惑をかけないようにするスキルが身についたんだろ。
だからお前は、自分や他人に大丈夫と言い聞かせて強がって、我慢する癖がついた。
違うか?」
…なにも、違わない。
どうしてこの人は、他人の事情をこんなに事細かに分かるんだ。
そんな記述、どこにもないのに。
「いいか。
この仕事は復讐依頼者と、復讐対象者のすべてを調べる。
そのデータを元に、当事者の感情や状況、周囲の目などを考察し、それに見合った復讐を代行するのが俺達の仕事だ。」