紅いクチビル
「…そうですか。」
だからあたしの心情が分かるとでも言いたいんですか。
「親がいない分、お前は愛に飢えたはずだ。
他人よりも、ずっと強く求めたはずだ。
その要求を満たしてくれるヤツが、自分を裏切ったとしたら?
お前は他人より愛を求めた分だけ、いやその何倍も傷つく。
ましてやお前は純粋でまっすぐだ。
なおのこと、傷つくだろうよ。」
黒江さんの服に染み着いた煙草の匂いが、鼻をかすめる。
臭い。
「だから、泣けよ。」
「…別に、悲しくなんかないですから。」
「おう。」
「…煙草の煙が、目に入っただけですから。」
「おう。」
「……うぇっ、ひっく…~~~っうぁ、」
あたしが嗚咽をもらし始めると、黒江さんは煙草の煙を、口からフーッと吐き出した。