…だから、キミを追いかけて
「……お前が思う以上に、潮の流れが速いんや。落っこちたら、流されっぞ!」

波留も驚いたみたいで、少し仰け反った。


「…そうなんや…分かった…」

しおらしく言うことを聞いておこう。変に密着されたくないから。

「渦見たいなら、反対側へ行くか?向こうの方がなんぼもあるぞ?」
「本当⁉︎ 行ってみる!」

故郷再発見ならぬ新発見ばかりだ。…今日は。

行き交う車が途切れるのを待って道路を横切った。
同じ様に広くとってある路側帯の欄干から、瀬戸がよく見渡せる。

「こっちの方が潮のぶつかり具合がよく分かるね…」

島の左右から流れてくる潮がぶつかり合う場所に、幾つもの渦ができている。

干潮時の浅瀬には、潮のぶつかる場所に道ができる…と、波留から教えられた。


「博識……故郷レポーターになれるよ!」

煽てでもなく感心する。
私はこの町のことを何にも知らない。
時の経たない町だとしか、感じたことがない。

「お前と違って、俺は感受性が強いんや!」

自慢…?

「アホらし…聞かんかったことにしよっ!」

笑い飛ばして海を見続けた。
潮風に髪が流される。

肩よりも少し長い髪が、頬を擽る。
それを気にも留めず、渦を見つめていた…。


「夕夏…」

右隣から声がして振り向いた。
太陽光を背にした人の手が伸びて、髪を耳に引っ掛けた。


「…お前、髪食っとる…」

茶色の瞳が細くなる。
黒く日焼けした顔の、ベージュ色した唇が口角を上げ、悪戯っぽく笑った。



トクン…と響く胸の音ーーー

波留と居ると落ち着く……って思ったのは、その時が最初。


新しいことずくめの1日は、その後も続いたーーー。



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