…だから、キミを追いかけて
翌朝、私の車を運転して、澄良は家にやって来た。


「…夕夏の部屋、久しぶりに来た。変わらんねー…」

大きな家具は変わってない。10年前と同じように思えても当然だ。

「あっ…マンガ!夕夏、相変わらず好きなんだねー!」

クスクスと笑いながら手を伸ばす。
高校時代からの趣味。大人になっても続いていた。

「昨日、波留がね…」

不意に飛び出した名前にギクリとする。
振り向く澄良が話しだす。その口元をまじまじと見つめる。

「いきなり電話してきて、『誕生日ケーキ作れるか?』って聞くんよ。『誰の?』って聞いたら、『夕夏』って言うから驚いて。今2人で出かけてて、店で祝ってやりたい…って言い出したからビックリした!波留が女子の誕生日お祝いするなんて言ったの、初めて聞いたから!」

ニコニコする彼女の言葉を疑問に思う。
波留は、澄良の誕生日を祝おうと言ったことは、一度も無かったのか…?

「…澄良は…言ってもらったこと無かったん?」

目を見て問いかけた。

「無かったよ。いつも『海斗に祝ってもらえ!』って、ツレない態度ばっかとられた…」

他の女子も同じ…と笑う。

照れ臭そうな顔をした波留を思い出した。
澄良に近寄られて、なんとも言えない赤い顔を見せていた……。


「…そんなの……変だよ……」

小さな呟き。それを澄良が間き直した。

「えっ⁉︎ 何が…」

不思議そうな顔をする。波留の気持ちは話せない。
そんな事をすれば、3人の関係が壊れる…。
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