…だから、キミを追いかけて
「好き」って言ってもらったのは、この間の祭りの日が初めてだった。
自分も…航も…初めて気持ちを伝え合った…。

声に出さなくてもいい雰囲気があった。
何も言わなくても、気持ちが似通っているように思った。
でもーーー




『ーー子供…できてた…』

電話口で呟いた時、航は暫く無言で……


『……産むのか?』

それしか聞いてこなかった。
『産んで欲しい』とも『産むな』とも言われなかった。
だから…すごく不安で……

『……どうしようか…迷ってる……』

まるで、自分だけの子供のような気がした。
2人の間にできた命だという感覚が、どうしても持てなかった。


……産むのが怖かった。

自分と同じように、父親のいない子にしたくなかった。
自分と同じように、独りにさせたくなかった。


(生まれてこないで……生まれてきても…不幸だから……)

ベッドの上で、そんなふうに思って泣いた。
その思いが、あの子を流したんだと思う。

自然とそうなったとしても、神様がその思いを汲んだとしか考えれなかったーーーー。




「………もういいよ。澄良……」

言葉を遮った。
惚気に近かった彼女は赤い顔をして、照れくさそうに笑った。

「澄良は海斗さんと結婚して正解だったよ。波留とだったら、きっと疲れる……」


私と航のように、いつかは壊れる。

ーーー澄良には壊れて欲しくない…。
いつまでも…幸せそうに笑ってて欲しい…。


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