…だから、キミを追いかけて
翌朝、階下へ行くと、母が仕事に出かける準備をしていた。
作業用の作務衣を着て、せかせかと焦っている。

子供の頃からの見慣れた風景。
さっさと準備しては出かけて行く母の姿に、いつも置いて行かれる寂しさを感じていた。


「………おはよう…」

自分から声をかけた。
母はちらっと顔を見ただけで、何も言わず目線を逸らした。

「……行ってらっしゃい…」

背中に向かって送り出す。
無言のまま出かけて行く母の姿に、言い様のない寂しさを覚えた。

…女手一つで育ててもらった。
いつも私のことばかりを優先して、自分のことは後回しにする母だった。

そんな母が大好きだった。
けれど、父と別れた母を許せない気持ちも持っていた。

退っ引きならない理由があったにしても、一緒にいて欲しかった。
私と両親の…3人の時間を作って欲しかった……。


「……どうして別れたの?」


その言葉を呑み込んできた。聞いてはならないような気がして、ずっと我慢してきた。

ーーー素直になって、聞いてみれば良かった。
答えてはくれないかもしれないけど、聞いてみたかった……。
母が何を思い、考え、そして、生きてきたかーーーー。



……のそのそと食事をする私を、祖母はじっ…と見ている。
食べ終わってから箸を置くと、「お粗末さん」と短く声を発した。

弾かれるように前を見た。

祖母に聞いてみたい。
昨日、部屋を出て行った後、母とどんな話をしたのかーーー。

思いきって口を開いた。

今日からは素直になろう……。

そう…思ってーーー。

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