…だから、キミを追いかけて
炊事場へ向かう祖母を追いかけた。
初めて聞く話を、もっと教えて欲しい…と願った。

「……美帆は、あんたの父親と『灯台で出会った』と言っとった。相手は島に遊びに来とった大学生で、『一夏の恋』に落ちたんや……」

一夏やなかったけどな…と祖母は笑った。
食器洗いを手伝いながら、話の続きを聞いた。

「美帆は恋で、盲目になっとった……」

祖母は呟いた。

「付き合い始めて半年経った頃、あんたがお腹にいることが分かった。あんたの父親は、『責任を取らせて欲しい…』と言うて、婿に入ってくれた。でも、やっぱり都会もんには漁師は向かんで……悩んでばかりおった…。街の暮らしに戻りとうて……辛そうやった……」

可哀相なことをしたな…と付け加える。
船酔いで参ってばかりいた、父のことを思い出した。

「美帆は頑固に都会へ行くことを拒んだ。…あの子は……この町が大好きやったから……」

「お父さんよりも⁉︎ 」

思わず叫んだ。

祖母は困った様な目線を私に向け頷いた。

「美帆は…『海のない場所では暮らせん』と、子供の頃から言うような子やった。あの子にとって、海はあんたの父親以上に、大切な存在やったんよ……」

許してやって欲しい…と囁かれた。
祖母の言葉に対し、私はなんと言っていいか分からなかった。

海よりも何よりも、父を想って結婚したんじゃないのか。
母にとって父は、そんなにも軽い存在だったのか…。

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