…だから、キミを追いかけて
「美帆には話したのか?今回のこと」
「ううん。黙っとき…って。おばあちゃんから頼まれた…」

重苦しい出来事を胸に秘めたままでいるよう、祖母は私に頼んだ。
話したところで、何かが変わる訳ではないと言ってーー。


「そっか…まあ…そうだな…」


父とはその後、軽い冗談話をして電話を切った。


もう二度と自分から父に連絡を取ることはない。


あの日のように頼ってはいけない相手なんだーーーー






……母と別れた父は、10年前に再婚していた。
相手は母よりも遥かに若い女性で、腹違いになる妹も一人いる。
そんな父に頼ってしまわないといけない出来事が起き、20年ぶりに連絡を取ったのは3ヶ月前ーーー




……父は久しぶりに電話をかけてきた娘が病院にいると聞き、慌てて飛んできた。
そこには祖母もいて、バツの悪そうな顔をしたまま二人は再会した。



『お久しぶりです……ご無沙汰しております……』

堅苦しい挨拶をする祖母に父は深々と頭を下げた。


『…こちらこそ、ご無沙汰致しております…。美帆さんは…お元気でしょうか…』

懐かしい声だった。
でも、悠長に話している時ではなかった。


『……お父さん…電話で話した通りだから…この書類にサインして……』


術名の書かれた書類を手渡した。
父はその文字を目で追って、信じられないような顔をして私のことを見つめた。


泣く訳でもない私に目を伏せ、署名してくれた。
それだけで良かったのに、その後もいろいろと助けてくれた……。


『お詫びだから…』

ーーーそう話して…。

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