…だから、キミを追いかけて
こそっと耳打ちされる。
その言葉の中には、母や私と似通った思いが隠されていた。


「時々…無性に山へ帰りとうなる。山の空気に触れて、深呼吸しとうなる。海も好きだけど、山も好きだから……」


寂しい過疎の山間に生まれ育った彼女。
澄良にとって、この島は故郷じゃない。いつまで経っても、あの山里の景色が故郷なんだ……。


ーー街で生まれ育った父と、海の側で生まれ育った母のことを思った。

都会と田舎の違いは、きっと海と山よりも深くて遠くて、重なり合わない、パズルの様なものだった。

その2人の間に生まれた私は、やはり都会には馴染めなくて………



「夕夏…!」

名前を呼ばれて振り返った先にいた人から、ケーキを口に放り込まれた。

潮の香りを身に付けたような人が笑う……。


トクン……と胸が鳴る。


波留との出逢いに奇跡のようなものを感じながら、この町に生まれ出でた命に、心から感謝していたーーーー。





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