…だから、キミを追いかけて
「…ねぇ、波留……お姉さんに本当のこと言わんとっていいん?」

彼女でもないのに勘違いされた。
嘘はなるべくつきたくない。波留の身内と言えど、この町の人だから……。

「放っとってええ!あいつは俺の言うことなんて、端から信用しとらん!」

怒鳴るような感じで言い返された。
それでも視線は気になる。あのにこやかな笑顔に対しても、どうにも後ろめたい…。

「それよりこっち来い!お前の触りたがっとった化石に触れっぞ!」


『触れ合いコーナー』と書かれた展示室に連れて行かれた。
掘り出された化石が、簡単に手で触れるようになっている。

「ここにあるんはレプリカやないぞ。全部本物なんや」

大きな二枚貝や巻き貝、海藻やフナムシの化石までが置いてある。
石化したとは思えない手触り。
特に二枚貝の表面は、殆ど現在と同じだ。

「大きいね……貝にとっても、昔は住みやすい環境だったんかな……」

大気汚染や水汚染もなく、のびのびと生きれていたかもしれんね……と呟いた。


何も知らない太古の地球に思いを寄せる。
化石に触れると、子供の頃に戻ったような感覚がする。
幸せだけど寂しかった。あの頃のような気持ちになるーーー。


「人間のおらんかった時代でも、敵はおったと思うぞ。…まあ俺らほど、凶悪やなかったかもしれんけどな……」

上からする声に振り向いた。真っ黒に日焼けした波留が、持っていた貝を取り上げる。

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