…だから、キミを追いかけて
波留の手を離して歩き出した。

私の後ろについて来ながら、波留は耳をすませていた。


「…私達、自動車学校で知り合ったんや。お互い20歳の時だった。私は短大のあった県外に就職が決まってて、その人も同じ県内に住んどった。二人とも一人暮らしで……お互いの部屋を行き来しとるうちに、一緒に住むようになって。…そのまま、6年間一緒に暮らした。私は…ずっと相手んことが好きやと思っとった。でも……そうやなかったんやな…って知った。それは…流産して、初めて気づいたことやったんやけど……」

陽炎の立ち昇るアスファルトを遠目に眺める。
あの逃げ水たちのように、儚い命の灯火は消えた。
そして、私と航は、如何に自分たちの関係が崩れ易かったかを知った。

「子供やったんよ、私達。親になる自覚なんてなかった…。なのに、体ばっか結び付けて…。愚かやったと思う。好きとか愛とか…私はよう知らんのに………」

波留のように、心底一人に片想いできる一途さもない。
『好き』と告白されても、その意味が解らない。

まるで何かを欠落させた人間のように、航に頼って生きていただけーーー。


「今となっては…子供には悪いけど……生まれてこんで良かった…と思っとる。寂しい子にしないで済んだ…。私みたいに……独りにならずに済んだ……」

偽善的だけど…と言葉を添える。

目先に見える青い海が、心を穏やかにしてくれていた……。


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