…だから、キミを追いかけて
「夕夏……」


名前を呼ぶ人に目線を向けた。
夜空を見上げたままの波留は、視線を落とさずにこう言った。


「今度は…縁がずっと続く奴とせえよ……。誰でも彼にでも、女は足を開くもんやない……」

下品な言い方だな…と思いながらも微笑んだ。

足を開くも何も、私は航しか知らない。

最初で最後の人……。

今の所、航はそういう人だ………。



「そうやね……。先輩の言う通りにするわ……」


小さく笑いを堪えながら答えた。

波留との恋愛はないな…と思いながら、灯台の上を仰ぐーーーー。

夜空に一筋の光が瞬く。
灯台の閃光はゆっくりと、回りながら辺りを照らしていた。





「ーーーおっ!見えてきたぞ!!」

波留の声に山の端を望んだ。
太陽のような強い光が、夜空を明け方のような朱色に染め上げていく。
山の端が燃える様に赤い。
紅に近い明るさを保ちながら、満月が昇ろうとしている。

昼間の様な明るさで空を包み込む。光を背に立つ山の形は黒っぽく、輪郭を露わにしていった。


「スゴい!おっきぃー!!」

月が昇るのは何度か見たことがある。…だけど、ここまで大きいのは初めて見た。

ずんずんと昇っていく月は見事に真ん丸で、表面のクレーターには薄いグレーの影が差す。
赤っぽい色は次第に変わり、オレンジ色からレモン色へと変化していく。


「…本当にスーパームーンだ……」


一年中で一番大きく見える月。

その効力は、伝説でさえも、倍に膨らませそうな気がしたーーーー。



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