…だから、キミを追いかけて
「後ろにいてやる。やから安心して上れ…!」


背中から声がして、ドキン!と心臓が跳ね上がった。
吐息が、後ろ髪にかかる。背中に波留の体温を感じて、妙な気持ちに陥った。



「や、やだ……!」


焦って身を捩った。

驚いた波留の手が、必死で私を抑える。


「あっぶねー!……何やってんだよ…!」


すっぽりと腕の中に収まる。

マズい。何やってんの⁉︎ 私………


凭れかかるような格好の耳に、トクン…トクン……と、規則正しい音が聴こえる。

落ち着くような胸の響き………。波留の心音だ………。


「…ええから、早う動け!このままやったら、上にも下にも行けん!」

頭頂部から声がした。

震える手足をなんとか動かし、梯子の方へ向き直った。
でも、そこからが動けない。


「…ええか、利き足から上に出せ。落ち着いて行けばええ。あと少しで、頂上に着くから…」

柔らかい声がする。
もしかしたら、初めて聞くくらい、優しい言い方かも……。




ほ……と息を吐きながら、右足を梯子の段に乗せた。


…怖さがときめきに変わっていく。

上り始めた足は、着実に、女神がいる場所へと進んでいったーーーー。





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