…だから、キミを追いかけて
波は穏やかに風に吹かれていた。
細かいモザイク模様のように、月の光りが海面上を揺れている。

満月で煌々と照らされた海は、何処までも、果てしない空の下に拡がっていた……。



ーーー女神は今宵、月に居る恋人に逢いに行き、夜が明けるまでは戻ってこない。灯台の上は、恋人たちの聖地となり、強い結び付きが約束されるーーー。


ネットで検索した言い伝えの文章が思い出された。

波留とは恋人には成り得ない。
この人は澄良が好きで、私が、他の人の子供を身籠ったことがあるのを知っているから……。



「ーーーー静かやね……」


呟きながら、無性に寂しくなるのを覚えた。
少しだけ気持ちが波留に傾いている……。

そんな自分に気づいたから。



「……夜に上るの、俺も初めてや……ちょっと贅沢な眺めやな…」


ロマンチックな口調の波留が、嬉しそうな声で囁く。


黒っぽい海の彼方に光る漁火。
あの光のように、波留が私の心を溶かしてくれる。

千畳敷でのことも、風化で作り出された岩壁でのことも、全てが鮮やかな思い出として心に蘇る。


この町で再び生きよう…と思えた。

この場所が大好きだ…と再確認した…。


何もかも………波留が教えてくれたおかげだ…………。




「………波留……」


想いを口にするんじゃない。
ただ……お礼が言いたい…。


「あのね……」


話し出そうとする私の口を波留が押さえ込んだ。
彼の掌にあたった吐息が跳ね返り、動悸が速まる。
その胸の動きに戸惑う自分の耳に、波留の小さな叫び声が聞こえた。


< 190 / 225 >

この作品をシェア

pagetop