…だから、キミを追いかけて
波留の足音が聞こえなくなって直ぐに、港の方からサイレンが聞こえだした。

海の上に瞬く光が集まりだす。

一番強かった光は確実に、赤い炎となって見え始めた。

ボンッ!と大きな爆発音が響く。

真っ暗な海に炎上する船。


……一体、誰の船なんだろう……。



疑う様な光景に、自分が独りでいるのを忘れる。
港のサイレンは鳴り続けている。遠くから、消防車とパトカーのサイレンも聞こえだした。

波留は、組合長の家に辿り着いたんだろうか……。
一体、何しに行ったんだろう。
そして、いつ、戻って来るんだろうか……。



ハラハラしながら海を見つめ続ける。

漁師という仕事は、危険と隣り合わせだ。漁に出かける前、祖父はいつも神棚を拝んでいた。

あの神棚に祀られていたのは、ここの女神様だったのだろうか。


ーーーーならば、お願い………


海に向かって手を合わせる。
お腹の子が居なくなりそうな時も、手を合わせなかった私だけど………



(どうか、誰も亡くならないで……!縁を切らないで………!)



『一生会えんでもいい相手なんか、この世には居らん…』


ーー波留の言葉を思い出す。

この島の人も、島以外の人も、父も、母も、航も………

好きで縁が切れた訳じゃない。

生きていく上で出会うべき大切な縁だった。だけど、深さが浅かった。


大事なことを教わる為に出会った。


……そして、その役目が終わったから途切れた。



お腹の子も……きっと同じ役目を担っていた………。



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