…だから、キミを追いかけて


「……夕夏っ!!」


大きな声にビクついて顔を上げた。
空いた穴の隙間から、薄茶色の瞳をした人が顔を覗かす。

よほど急いで上ってきたらしく、肩が大きく上下していた。


「悪ぃ…!…待たせたな…!」


滑り込むように、上半身だけを床に押しつける。
うつ伏せた背中は背骨を中心にして、激しく盛り上がったり下がったりしていた。


「組合長の奴が……家に居らんで……おばさんに聞いたら……孫んとこ行っとるとか言うて……!…この一大事に………!」

ハァハァ…と息を切らせながら、遅くなった理由を述べる。
こっちはそんなことなんかどうだっていいのに、本当に何処までマイペースなんだ……。


「もう……波留は……やっぱり馬鹿や…!」


人の命が関わると、自分のことも周りのことも見えなくなる。

ライフセーバーだか、消防署勤務だか知らないけど、私をたった独りで此処に残して、寂しくなかったとでも思うのか……。



「馬鹿…!サル……!もうっ!……知らんっ!!」


ぽろぽろ…と溢れて涙が止まらなくなった。
どうしたと言うのだろう……。
波留は、帰って来たのに………。



安心……安堵………?


そんなんじゃない。


この気持ちはーーーーー




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