…だから、キミを追いかけて
サイレンがおさまった静けさの中、私は涙でぐしゃぐしゃになった顔を手の甲で拭きながら、波留から離れた。

海上では保安庁の巡視船が漁船に近寄り、救助活動を開始している。
その様子を黙って見ていた波留は、視線を私の方に戻して聞いた。


「………落ち着いたか?……」

伺う様に顔を覗き込む。

コクン…と頷く私を疑わしそうに見つめ、意外な話をし始めた。


「……俺の曾祖父さん、ここの灯台守りをしとったんや……」

懐かしそうな目をして、体を海の方に向ける。少し拒むような仕草に、ちく…っと胸が痛んだ。

「まだ灯台ができ上がる前で、その頃は手動に近い状態で、海を照らしとったんやって……」

波留はその話をお祖父さんから聞いたと言った。
昔話や伝説だけでなく、祖先の話にも詳しい人だったらしい。

「……それでかなぁ……なんかこの上にいると、妙に落ち着くんは………」

ライフセーバーの仕事なんて、灯台に上らなくても本当はできる。ただ、自分は自己満足もあって、此処に上りたい……と語った。

「まさか、今夜に限って、海上火災に気づくとは思わんかったけどな……」

目線を変えてこっちを伺う。
泣きはらした目をしている私に微笑みかけ、コツン…と額を寄せてきた。


「……キヨと違って……お前は意外に泣き虫やな……」


ドキン…と胸を打つ波留の言葉を、聞かなかったことにしよう…と焦った。

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