…だから、キミを追いかけて
「波留は馬鹿やね……」

目の前に並んだケーキの試作品を眺めて呟いた。


友情が壊れるのを恐れて、澄良を海斗さんに譲った。自分の想いは告げぬまま、そんな自分に酔いしれている。
せっかく私が、波留のことを好きだと言ったのに。彼は私の方を振り向きもしないで……。

…向かなくてもいいから、せめて見える範囲に居て欲しい…と願う気持ちすらも、かき消えようとしている。


独りにされるのは懲り懲り。
したら恨む…と言ったのに……。


「…波留に言っとって……。何処へ行っても、私は波留のことを好きでいてあげるから。だから、頑張って…って」

女子とは認めてもらえないかもしれないけど、恋を追いかける相手としては先輩だから。

「ついでに、生意気な後輩がいたことも忘れんとって…と伝えて。いろいろ、ありがとう…って‥‥」

まだ異動が決まった訳でもないのに、早くも別れの言葉を用意する。言いながら涙目になる。
馬鹿だ…と思いながらも、自分の口では伝えられそうにないからーーーー





「……何の話しとんのや?」


パラソルの上から声がした。

ドキン…と胸が打ち震える私の横で、試作品のケーキを並べ終えた澄良が振り向いた。


「波留への伝言、聞いとったんよ……」

言わないで…は間に合わない。既に放たれた言葉は、本人によって返された。

「俺に…伝言……?」

パラソルを持ち上げた人が、何や?…と顔を覗かせる。


一瞬にして押し黙る。

ズルい。
この展開はないやろ……。



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