…だから、キミを追いかけて
「俺に伝言って何や。直接聞いたるから言えや」

向かい側の椅子に座り込む。側に立っている澄良に「コーヒー頼む」と告げ、こっちを向いた。


「ほら…伝言は?」


偉そうな顔して威張っている。
なのに、その顔を見たくて仕方ないと思っている私。


………会いたかった。

その一言が一番最初に言いたいけれど………


「波留が…転勤するかも…って聞いて……するなら餞別代わりに伝言してって………」

「…やから何て?…憎まれ口か?」

勿体ぶった言い方にイライラしている。子供っぽいな…と思いながら、いつもと同じ様に伝えた。

「波留のこと…何処行っても好きでいてあげるから頑張って…ってーーーー」


止めていた涙が、また溜まり始めた。
本当の気持ちが伝わらない…って苦しい。この苦しさを抱えて、私はこれからも生きていくんだろうか…。



「………波留は………馬鹿やね………」


涙を零しながら呟いた。
いきなり泣き出した私を目の前にいる彼が、呆れた様な顔をする。

「馬鹿って何や!不躾な言い草すんな…」

怒っている……?それとも、それは、図星からくる弱り顏……?


視線を外した草むらから、秋風に混じって虫の音が漂う。視界の端に見えるススキの穂が、風に頭を揺らしている。
空中で飛び交う赤トンボの群れが、「言っちゃいなよ…」と羽をばたつかせた。


< 212 / 225 >

この作品をシェア

pagetop