…だから、キミを追いかけて
「ええですかー?皆さん、もうすこしだけ中に寄ったって下さいー!」


カタカタ…と小刻みに揺れ動く、背面の足場を気にしていた。


「…あっ、新郎さん、顔こっち向けて!」

(やっかましー野郎やな……)


心とは反対に、笑顔を向ける。


「ええですねー。新婦さんもええ顔してますよー!」

(どれどれ…)

「あっ!新郎さん、駄目ですよ!前向いて!」

(…なら隣を褒めんなよ!)

白い綿帽子を被った相手の肩が震えている。さっきから駄目出しされる俺のことが、可笑しくて仕様がないらしい。


「ええですかー?1枚目、いきますよー!!」


パシャ!

(ーーーおいおい、今のはシャッターが切れた音なんかよ!)


「はい!じゃあもう1枚撮りますからねー!皆さん、視線こっち向けてー!!」

(早う言えや…!)


パシャ!


「はい、オッケーでーす!!お疲れ様でしたー!!」

(やれやれ……)


ざわざわ…と声が飛び交う。衣擦れの音はあちこちから聞こえだし、足場を歩く靴の音も始まった。

さっきまで緊張していた空気が、あっという間に解れだす。
ざわめきを聞いて泣き出した子供に向かって、隣の女性が声をかけた。


「真那(まな)ちゃんおいでー!お姉ちゃんが抱っこしたるわ!」


慣れた様子で、1歳児を抱き上げる。
白く塗られた手の甲に、さっき交わしたばかりのプラチナが光っていた。


「いい子、いい子。泣かんのよー」

上手い具合に子供をあやし、母親に戻した。


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