…だから、キミを追いかけて
「…真那はえらいお前に懐いとんやな…」

羨ましい気持ち半分で声をかけると、小さな子供のような顔が振り向いた。

「那海ちゃんが磯に出とる時、私がよう面倒見よるからね」

三つ子の魂百までやね…と笑う。

可愛いくて赤い唇に吸い付きたくなって、俺は慌てて自制した。


「……俺、暫く子供いらんわ……」


こいつを取られとうない。子供と言えど、ライバル同士やから。

「なんで?私は早う産みたいけどな……」


言いながら、少しだけ暗い顔をする。
涙ぐみそうになる彼女に、泣くなよ…と注意した。


「今日はお前が主役やろ⁉︎ 泣くんやない!お父さんも折角、来てくれとんのに…」

「うん…分かっとる……」


懐紙で目頭を押さえる。
こいつの涙を見ると、いつでも決まって思い出すことがある。



初めて、夕夏を抱いた夜………

俺の胸の中で、彼女は「幸せや……」と、涙を零した。



「……幸せなのに泣くんか?」

聞き返すと、小さく首を縦に振って……

「うん……だって、初めて幸せやな…と思ったから……」

唇を震わせて微笑む。その流れた涙の理由を、夕夏から聞いた話と結び付けて考えた。

(…こいつの初めての相手は間違いやったかもしれん。でも、これが見つけた答えならええか……)


肩を抱き寄せて、額にキスをしてやった。
夕夏は涙を浮かべて、すん…と鼻を鳴らした。

その顔は美し過ぎて、本当に幸せなんは自分やな…と自覚したーーーー。


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