…だから、キミを追いかけて
「体の調子はどうね」

言葉少なく確認された。

「大丈夫。…何ともないよ……」

お盆から麦茶の入ったグラスを引き取り一口飲み込む。
喉を潤すお茶の香りは、なんとも言えない芳ばしさがある。

「…美味しい!うちの麦茶は、どの市販のよりも美味しいね」

無農薬栽培の麦を使っている。
子供の頃は、それがどんなに価値のあることか知らずにいた。

「この麦茶のおかげで、私はまだまだ元気でいられるよ」

風邪一つひかないことを自慢する祖母。
精神的にはかなり応えてる筈なのに、それを表には出さず耐え忍んでいるのはさすがだと思う。


「……おばあちゃんを見習わんとね…」

小さく笑った。
心の浮き立つ様子もない私を、祖母は何も言わずに見つめる。



「ーー今夜は、夕夏の好きなお刺身にしよっか?」

空になったグラスを取り下げ、お盆を持って立ち上がる。

「ホント⁉︎ だったらイカにして!あのヌルっとしてコリッとした食感が味わいたい!」

お刺身をそう表現すると、祖母は小刻みに体を揺らして笑った。

「ヌルっとしてコリッとね、うまい言い方する。その通りや」

背筋を伸ばして、トントン…と腰を叩く。
去年、喜寿を迎えた祖母の年齢からすれば、当然過ぎるような仕草。

…けれど、決して弱音を吐こうとはしない。
何に対しても気丈夫なのは昔からの性格だ。


「休んどき。夕ご飯できたら呼ぶわ」

ドアを閉めて階段を下りていく。
足音が昔よりも緩慢になったように聞こえるのは、やはりそれなりに歳を重ねてきているせいだろう。



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