…だから、キミを追いかけて
「はーい!今行く!…ゴメンね、ゆっくりしていって!」

自分の器をトレイに乗せて中へと入る。
5、6人で来た観光客は、併設された雑貨の方を見ていた。


案内しながら笑顔で接客する澄良を見つめる。

すっかり島の人っぽくなっている。

羨ましいと思う反面、自分には絶対真似出来ない…と思う。

多分また逃げ出す。

6年前と同じようにーーー




短大を卒業する年の3月始め、自動車学校の合宿所へ通った。
2週間程度の集中合宿で免許が取れるという手軽さもあって、学生の間では人気だった。


……そこで、彼と知り合った。

一条 航(いちじょう わたる)ーーー初めてできた私の彼氏。



……航は、少しだけ私より背が高い人だった。
どちらとかと言うと痩せっぽちで、臆病な所もある人だった。


車庫入れのある第3段階で私達は滞っていた。
何度も試験に落っこちて、その度に二人揃って顔を合わせた。



「……君もまた?」

声をかけてきたのは航だったと思う。確か4回目の試験の時だった。

「そっちも?」

二人して笑った。
お互い好印象だったのは、同じ雰囲気が漂っていたから…。


「苦手なんだよね。車庫入れ」
「同感!特に後ろのポールが邪魔!」


…すぐに打ち解けて話し始めた。
話してみると、入校日が同じだった。

仲良くなって話す機会が増えた。

住んでる場所も近いと分かり、4月から一人暮らしを始めるんだ…とお互いに喋った。


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