…だから、キミを追いかけて
父は普通のサラリーマン。
都会生まれの人で田舎の暮らしに慣れなくて、私が生まれた3年後、母と別れて都会へ戻った。


『都会もんはつまらん』

祖母は諦めのような言葉を口にした。
母はブツブツ言う祖母に反比例し、ただひたすら沈黙を保った。

何も言わない母の口から、父に対する気持ちを聞くこともなく海辺の町で育った。
旅館の中居として働く母の帰りを待ちながら、夕暮れが始まるまで外遊びを続けるのがその頃の習慣。
夕日が海に沈むのを見るのは日常茶飯事で、代わり映えもしない毎日を特に退屈だと思うことはなかった。



……海岸線を走ること25分。
離島にさし架かる橋のたもとに着く。

10年前、橋ができたと同時に開設された休憩所の駐車場に車を停め、車外へと降り立つ。


二つの陸地に挟まれた瀬戸に架かる大きな白い橋が見える。
流れ込む二つの海流と沿う様にうねる橋の向こうには小さな島がある。

この橋ができるまで、そこへの交通機関は渡船しかなかった。


『町長は馬鹿だよ。あんないい橋作っといてお金もとらないなんてさ……』

渡船は有料だったのに…と、祖母は呆れ口調で呟いた。
その頃、高校生だった私はそれを感想もなく聞いていた。


今は、数年ぶりに橋を見て思う。


(無料か……もったいない話……)


市のPR活動のおかげで、橋はすっかり有名になっている。
テレビ番組でも何度となく取り上げられ、全国からの観光客が増している。

…結果、島の人たちは大いに潤った。
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