…だから、キミを追いかけて
「ーーあっ!こらっ!帆崇!!」
佳奈さんの声に振り向く。
視線の先に子供の背中。
船着き場の端っこでフナムシを追いかけている。
(危なっ…!)
焦って走り寄った。
手に持っていた器が割れ、その音に澄良達が驚いた。
コンクリート面の端にいる帆崇君が、ビックリしたような目で振り返る。
ぎゅっ…と体を捕まえた。
昨夜と同じ骨っぽい体の子は、いい汗の匂いがしていた。
華奢なのにがっちりしている。
まるで……航のようだ………。
「危ないやろ。お母さんに心配かけたらいけんよ…」
母親のような言い方をした。
手を離した子供は親の元へと走り、腕の中には…何も残らなかった……。
虚しさが堪えきれなくなり、ボロボロ…と泣きだした。
ぎゅっと握り締めた手の中に、愛も恋も残っていない。
形になりかけていたものは、手にする前に流れていった。
何もない…。
何も…ない………。
「う…ううっ……ううう……う…あああ……!」
声を殺すことも忘れて泣き叫んだ。
雫が船着き場の底に消えていく。
その一粒一粒が命のように思えて、思わず手を伸ばしたーーー。
バシャーン!!!
激しい水音と共に、半身を海面に打ち付けた。
痺れる様な痛みが皮膚の上を走り抜ける。
左頬と目の当たりが、特にビリビリと痛い。
顔面から落ちたショックで、私は気を失いかけた………。