…だから、キミを追いかけて
ちらっと海斗さんの方を気にする。過去の話なんかしなきゃ良かった…って顔をしている。

「澄良は頭良くて…学年１番の成績やったもんね。お陰で私、いつも助かっとった！」

これは本当。嘘じゃない真実ってホッとする…。


「県立大行って学校の先生になるのが夢やったっけ？」

星流の言葉を受け、澄良が頷いた。

「国語教師になるのが夢だった！今は違うけど…」

「…今は何？」

口を挟んだ。
こっちを向く澄良の顔が輝いている。綺麗な笑顔を見せて嬉しそうに言った。

「海斗さんと売れる店を作ること！沢山儲けて海外旅行する！」

ねぇー？と彼に問いかける。海斗さんは照れた様な顔をして、「まあな…」と頷いた。

「ヤダよ。これだから新婚には近づきたくねーんや！」

やってられん…と星流が席を立つ。
台所の流し場で朝ご飯の片付けをしている佳奈さんの所へ寄って行った。


それぞれの夫婦の姿を見ながら、自分と航の過去を見つめ直す。


私達２人の中に、この人達みたいな絆はあったろうか……。



（……なかったよね。少なくとも……私には……）


失くしたものは大きかった。
全てのものが抜け落ちてしまうくらい、今も激しい虚しさに襲われる。

仕方ない。

全部……浅はかな自分のせいだ……。



カタン…と音がして、廊下から波留がやって来た。

謝らなければいけない。でも、声が出てこない。


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