…だから、キミを追いかけて
ゴクゴク…と飲んでいる。
その様子を見て、自分も喉が渇いていたことを思い出した。


プシュ!とプルタブを開けて気づいた。

「ノンアルやん!」

銘柄を見て叫ぶ。
生ビールの缶を手にした波留が、呆れたように振り返った。

「当たり前やろ!お前、車で来たんやろう⁉︎ 飲んだら運転できんぞ!」

アホか…と小さな暴言を吐く。
確かにその通りだ。


「アホやないもん」

間抜けには違いない…と思いつつ、一気に飲み干す。
麦芽風味の炭酸飲料は、スーッ…と身体に抜け落ちていった…。


「……もう無い。つまらん…」

独り言を呟く。
それを小さく笑われた。


「今、笑ったでしょ!」

振り返る。
海を眺めていた顔がこっちを向く。
まともに顔を見たのは初めてかもしれない。
意外と見れる顔だった…。

(ふぅん…こんな顔だったんだ…)


少し冷静になってきた。
落ち込みが酷かったのも忘れ、波留の顔を見入った。


「マジマジ見んな!色男だからって!」

波留が茶化す。

「えっ⁉︎ 何言ってんの⁉︎ 自意識過剰もいいとこ!」

調子狂う。
どうも、この人とはこんなだ…。



ザブン…タプン……と船着場の壁に波が打ち寄せる。
漁に出かける小さな船が、港の中を走り抜けていく。

荒い波が寄せる。
波紋は帯状に広がり、やがて、小さくなっていったーーー。


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