…だから、キミを追いかけて
夜になって戻った私を、母は責めるように小言を言った。でも、祖母は甘く、「それくらいにしておき」と庇ってくれた。


「ご飯食べる?」

怒りながらもお刺身の乗った皿を取り出す。アジのお刺身。美味しそうだ。

「食べる。あっ、ご飯はいい」

コレがあるから…と生ビールの缶を袋から取り出した。
さっき波留が飲んでいるのを見て、どうしても飲みたくなって買った。


「夕夏……飲んでいいんか?」

祖母が尋ねる。

「ダイジョーブよ!1本くらい飲んだってどうもない!」

流産したからってアルコールを飲んではいけない…とは言われなかった。
ただ、体の調子が戻っても、心がついていかない時があると言われた。





『喪失感とかそういったのは、人それぞれ違いますから』

術後の経過を診てもらう為に病院へ行った時だった。
その時はまだ、航と暮らしていた。

何かを失った…という感じはなかった。ただ、何もかもが切ない感じではあった。


『パートナーとは、上手くいってますか?』

医師の質問は難しい。作り笑顔を見せて、『はい…』と言葉少なく答えた。



ーー航とは、表面的には上手くいこうとしていた。
お互いが子供のことについて、話し合おうとしなかった。


怖かった。


話すのも。話されるのもーー。



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