…だから、キミを追いかけて
ビールの苦みを、口の中で泳がせた。
ジュワッと広がる泡の感触で、お刺身の生臭さを取り除く。



今頃、航はどうしているだろう。

私が故郷へ帰ったことを、誰かに聞いただろうか。


頼りな気で寂しそうな航の顔が思い浮かぶ。
自分と同じように、都会から逃げ出したかった人ーーー


私達はきっと、『似た者同士』だった……。




『一緒に住んで』

言い出しっぺは航だった。
独り暮らしの寂しさに耐えかねて、私を呼んだ時だった。

『いいの?親にバレない?』

お互い親の目が気になった。
特に、航はまだ大学生だったから……。


『私のアパートそのままにしとく。お母さんやおばあちゃんが来た時のカモフラージュ。その方が困らないでしょ?』


方言を使わずに話すのは慣れていた。
短大へ通った2年間の生活は、私をすっかり「都会もん」に変えていた。


仕事はパソコンオペレーターじゃない。
福祉施設の介護職を兼務した事務職員だった。

パソコンも一応操作する。
計算事務。その程度だ。

夜勤はしていない。
体力的に無理があるから……と言って断っていた。


ーー今から思えば、あの頃から嘘ばかりついている。


この口が憎らしい。
だから、あんな事になるんだ……!




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