…だから、キミを追いかけて
「航……」
名前を呼ぶ声が震えた。
薄いグレーのボーダーTシャツを着て、ブルーの短パンを履いた男性が応える。
「久しぶり…元気だった?」
懐かしい声に、胸が張り裂けそうに痛い。
……元気な訳がない。
戻ってきて、まだ1ヶ月も経っていないーーー。
「航は…?」
聞かれたから聞き返した。それ以上の感情は、持たないよう努めた。
「なんとか…生きてる」
寂しそうに笑う。
その顔を見ると胸が詰まる。
駄目だ……泣きだしそう………
「あらー!ようこそ。お客様⁉︎ どうぞ中へお入り下さい。外は暑かったでしょう?」
上機嫌で母が迎える。
「どうも。予約していた一条です。今日はお世話になります」
礼儀正しい。
繊細な雰囲気は変わっていない。弱そうで頼りなさそうなところも。
「一条様ですね。ご予約ありがとうございます。チャックインの後、お部屋にご案内致します」
「頼むわよ」と、部屋の鍵を持たされた。
『朝顔』…よりにもよって、私の担当か……。
サラサラ…と名簿に記名する背中を斜め後ろから気にかける。
今更どうして、彼はこんな所へ来たのだろう。
私達はあの日……全てを無にしたのに………。
「どうぞ、こちらです」
手荷物を預かろうとした。
「軽いから、大丈夫です」
優しく微笑む。
私の体を気にしている?
気のせい……?