…だから、キミを追いかけて
合鍵で中へと入った。

荷物を部屋の片隅に置き、テーブルを避ける。
一組敷くのに5分もかからない。ベッドメーキングなら、仕事場でいつもやっていたから慣れている。


入って5分。布団を敷いて外へ出る。それ以上は用無し。バイトは終了だ。



「お疲れ様。また宜しくね!」

バイト代の入った封筒を受け取り、旅館を後にする。
ケータイの着信音が鳴る。

…澄良だ。


「もしもし?夕夏?何してる⁉︎ 」

賑やかな声が聞こえる。祭り会場にいるみたい。


「バイト。今解放されたとこ」

あの飲み会以来、久しぶりに声を聞いた。

「じゃあ、こっち来ない⁉︎ 今ね、露店で焼きそば屋やってるの」

「焼きそば屋⁉︎ 」

「うん。海斗さんや星流さん夫婦と。忙し過ぎて売り子を手伝って欲しいんだけど……どう?」

「いいよ、行く。場所どこ?」

話を聞きながら公園へと向かう。航とは会いたくない。澄良たちの仕事を手伝っていれば、時間を気にしなくて済む。





「……あっ!来た来た!夕夏ー!こっちー!」

赤いバンダナを頭に巻いた澄良が手を振る。
行列を作ったテントの中では、鉄板の熱気と香ばしいソースの香りが漂っていた。


「悪いね。思った以上に売れて困っとったんよ」

海斗さんが申し訳ながる。

「いいんですよー!私もこの間お世話になったし。今日はご恩返しします!」

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