桜の龍~誠の元に集う者~
 今「はい・・・」
 斬られた腕の傷を見てみる。幸い、傷は浅い。これくらいなら簡単な術で治せる。私は右手を傷口に翳し、左手で素早く印を切り呪を唱える。
 歩「我の名に於て命ずる。木々よ、彼の者の傷を癒せ・・・“治癒”!」
すると右手から優しい翡翠色の光が放たれ、傷口を包んでいく。次に傷口を浄化するように一撫ですると、傷は跡形もなくなった。
 歩「もう大丈夫だ」
 今「凄いですね、副組長!」
フフッ、あんなに嬉しそうに騒いで・・・。さーて、総司と左之さんは大丈夫かしら?
 歩「総司、左之さん、怪我は?」
 総「僕は大丈夫。どこも怪我してないよ」
 原「おうよ」
 よかった、怪我はしてないんだ。でも・・・
 歩「私も、人斬りの仲間入り・・・か」
 原「どうした?」
 歩「ううん独り言。さぁ、屯所に帰ろ」
歩き出そうとした、その矢先だった。
 歩「・・・・・・・?!」
 突然、足から力が抜けた。咄嗟に薙刀を地面に突き立てて体を支えるも、思うように動かないし吐き気もしてきた。
 原「おい、大丈夫か?!」
 歩「平気。少し、目眩がしただけ」
とりあえず足に少し力が戻ってきたのを見計らい、一気に立ち上がる。まだ吐き気はするし、ふらつくけど歩けない事は無い。
 歩「さぁ、帰ろ」
 総「人を斬ったの、初めて?」
 歩「面と向かっては、ね。でも、避けて通れない道。だったら、突き進むまで」
 そうして、私の初仕事は終わった。



 その日の夜。夕食後、部屋に戻った私は窓から星空を見上げながら、ぼんやりと物思いに耽っていた。
 歩「生々しいくらいに、感覚が残ってる」
でも、ここは幕末。毎日どこかで命の駆け引きが行われている時代。これからは、命を奪った人の分だけ生きないと。
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