桜の龍~誠の元に集う者~
 近藤派の幹部が勢揃い。心強い!
 歩「楽しい酒盛りになりそう」
 平「あぁ、そうだな!」
 新「・・・おっ、そろそろ芹沢さんを深呼吸ん達が連れて来る頃合いだ。じゃぁ歩ちゃん、後でな」
そう言い残し、一足先に座敷へ向かっていった。新八さんと同じ神道無念流の使い手である芹沢を確実に仕留めないと、私も斬られかねない。深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、お菊さんの方を向く。
 菊「ほな、参りまひょ」
 歩「はい」
 しばらく待ってから、私達も座敷へ向かう。襖の前に着くと、お菊さんの後ろに座って一緒に座礼する。
 菊「おばんどすぇ。今宵の相手をさせて頂きます、お菊どすぅ」
 歩「同じく、桜いいます」
 菊・歩「どうぞ、楽しんでおくれやすぅ」
 桜というのは私の偽名。軽い自己紹介を済ませた後、いよいよ暗殺の第一段階・『泥酔作戦』の名を伏せた酒宴が始まった。
 歩「芹沢せんせ。お酌しますぇ」
 芹「おぉ、すまんの」
うまく芹沢に近付き、後の仕事がしやすくなるよう芹沢を盃に酒を注ぐ。
 芹「桜と言ったか。なんぞ舞など一つ、舞ってはくれまいか?」
 歩「よろしゅおす。万事、心得てますさかい」
そうお願いする芹沢の顔は、酔いが回り始めているのか少し赤い。それにこの人が見る私の舞は、最初で最後。餞に舞ってやるか。
 伊達に幼い頃から、母さんに剣道の稽古の後で日舞の指導を受けてた訳じゃない。
 菊「伴奏は?」
 歩「大丈夫どす、伴奏は必要あらしまへん」
 伴奏を断り、予め袂に入れておいた扇子を開く。扇子にはこの時期らしい紅葉と流線模様が描かれ、頭にあの和歌が浮かぶ。
 歩「ほな、参りますぅ」
 すぅっと軽く息を吸い込み、くるくると舞い始める。
 歩「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」
 山「小倉百人一首ですか。いかにもこの時期らしい、いい和歌ですね」
舞い終えると、山南さんが解説してくれる。
 土「どういう意味だ。山南さん?」
 山「不思議の多かった神代ですら聞いたことがない、竜田川に散らされた紅葉で水を絞り染めにしてしまうとは・・・という意味です」
 芹「見事じゃ!誉めて遣わす」
 歩「へぇ、おおきに」
 誉められて、別に悪い気はしない。
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