私情。

家について、階段を駆け上る。



あーちゃんの部屋の扉を開けて、
ベッドめがけて勢いよく突っ込む。


あーちゃんの部屋の窓からは大きな月が覗いていて、吸い込まれるように目を閉じた。



さっき、どんな夢を見ていたんだろう。



あやふやな記憶。辿ろうとしても霧がかかってみえなくなってしまう。



「あーちゃん…?」



背を向けた私を包むように、
彼は私を抱きしめた。



「あーちゃんよしよし。私、どこにもいかないよ。」




「でも俺はおまえの名前も知らない。」




「んー、そっか。じゃあ、名前付けてよ。今からその名前でいいかなあ。」



しばらく経ってからあーちゃんは青白い光の中でぽつりと、


「ふうか」と口にした。




「風の香で、風香。風のようにつかめなくて。懐かしい匂いじゃないけど、そんなようなものを連れてくる。


ねえ風香。おまえはほんと不思議なやつだよ。俺が好きだっていったら、どんな顔するんだろうね。」




私はそっと彼の唇に人差し指を立てて笑う。



月があまりにも照らすから、
困り笑いがばれそうで。



「あーちゃん、好きよ。」


君の気持ちを無視した。
きっと、嘘でしかないから。





嘘で、あってほしかったから。
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