私情。
「は!?いっった、何!?!?」
不意に頭を小突かれ、
また顔を上げる。
「俺の好きを無視しといてそれはねえわ。」
「でもこの先どんな風に自分が傷つけられるか、わかってるもの。」
「へえ。じゃあこのあと、俺はおまえになんていうの。」
言わなきゃいけないのも辛いな、
なんていうのが見え隠れするように笑ってしまって、でもまあいいかと彼を見めた。
私はベッドから足を出すように座り、
あーちゃんは目の前に立っていた。
私は、淡々と話す。
「あなたの好き。私の好き。」
あーちゃんごめん。
「私の好きは、恋だよ。」
あーちゃん、ごめんね。
「そしてあなたもそれは知ってるはず。そして、それを受け入れたよね。」
あーちゃん、あーちゃん。
「だけど、きっというよ。人として好きって言う意味で好きだと。そういってきたと。」
彼の顔がだんだんと歪み始める。
「あなたはそういう人だよ。現に、そう思ってるでしょ。あなたの自己犠牲も、飛んだ笑い話だよ。」
そういうと間髪入れずに、
「なーんもいえねえよ。」
と、あーちゃんは笑った。
「なんも、言えねえや。ごめんな。」
「人として好きって、投げ捨てたい?先に言われたから言いにくい?」
「そこまで分かってるなら逆に、おまえは俺に何を求めてるのさ。」
まだ何か言いたそうに立ちすくむあーちゃんにまた人差し指を立てる。
肩に手をかけて起き上がり、唇をかんだあーちゃんに、優しくキスをした。
「意地悪でごめんね。」
私の言葉なんて聞いていないかのように、彼は私の髪に手をかけた。
内側から書き上げて、
それに隠すように。
彼もまた私にキスをした。
今日、言葉にならない声が鬱陶しくて、それを彼も感じていて。
2回目の夜を迎えた。
月に照らされて、
あーちゃんの顔がチラチラと見える。
「あーちゃん、好き。」
溶けてしまいたくなるほど、
優しい風と、熱の中で。
泣きたくなるような弱さが襲うから、
あなたを少し抱き寄せた。
いまにも消えてしまいそうだから、
ただそれが怖かった。
愛してるなんて、
言うだけ傷つけるとわかっていたのに。
「好き。」
私の好きに返すように、
彼もそっと呟いて。
ごめんねの代わりに、
もう一度キスをした。
「風香、好きだよ。」
「風香、好き。」
今だから許される、
今しか許されない。
それは本気の好きじゃないと、
後で投げ捨てられる言葉で。
私が、風香になった日。
彼が、私をもう一度抱いた日。