私情。
おもむろに携帯に手をかけ、
恋人の連絡先を開く。
「電話、かけてもいい?」
「誰に?」
「恋人。」
「好きにしなよ。」
「ん…。」
興味ないような声に、
悲しげに返してしまった。
指を機械的に動かして、
電話をかける。
2コール目で出た彼は、
どうしたのとはしゃぐ。
「ねえ、あのさ。私のことって、好き?」
「いきなりどうしたの?あと、どうしたの、つらいことでもあった?」
「ん、どうして?特にないよ?」
「声。辛そうだったから。泣きそうなんじゃないの?今どこ?迎えに行こうか?」
大丈夫、というより先に携帯を無理やり取られて、とった本人も不思議な顔をしてた。
何が何だかわからなくて見つめる私に、
彼もキョトンと返す。
携帯から漏れる、
私を呼ぶ不安の声。
あーちゃんは携帯を耳に当てる。
さすがに焦った私は、
えっ、まってと声を上げるが、
あーちゃんは私を見ない。
「もしもし。」
変な焦りと緊張と、
罪悪感と、汗。
待ってなんて言う資格もない。
耳から音が消えて、
何やらあーちゃんはパクパクと口を動かしているけれど。
何も聞こえない。