私情。
電話が鳴って、
慌てて画面を覗く。
まだ登録していないけれど、
しも四桁で人の番号は覚えるくせがあるから、誰だかはすぐわかった。
「もしもし…大丈夫?」
恋人の声がする。
「ん。今から向かうね。30分くらいかかる、かな。」
「そっか。わかった。」
これから、傷つけるんだよななんてうぬぼれながら、てくてくと歩く。
多少声が震えた。
彼は優しい声だった、なんて。
いつも彼は優しかったのに、
そんな風に私に移るのはどうかしてる。
優しさも苦しさもあべこべで、
混ぜこぜで。
ふと、昨日2人が話してきたことを思い出した。
何を言ってたんだろう。
わざわざ電話を取り上げてまで。
何を。
考えても考えても泥沼で、
気づけばもうファミレスの前まで来ていた。
携帯を開くと新着通知が来ていて、
中に入ってるからと。
扉を開けると、
何名様ですかとおきまりのセリフに笑顔が添えられたので、えっと、待ち合わせしててとだけ伝えてわかりましたに背を向ける。
店内を見渡して、
禁煙ルームへ足を運んだ。
一番奥の窓に沿った2人用の席に、
恋人は腰掛けている。
コツコツと音を響かせて歩くと、
向こうも気づいて片手を挙げる。
「おはよう」
「ん、おはよ。待たせてごめんね。」
「そんなことないよ。今日は朝なのに子供がたくさんいていいね、笑い声とか本当に癒されるし。」
彼は、ニコニコと笑う。
何もかも、あーちゃんとは違う。