私情。
「あの、さ。」
重い口を開いた。
それは彼もわかっていた。
「うん。どうした?」
知っているだろうに、
わかっているだろうに。
彼は優しく笑うんだ。
「私さ。好きな、人がいて。」
「うん。そうだね、きっと、昨日の人だろう?」
「う…ん。」
言葉に詰まって、罰が悪いような顔をしてしまった。そんな資格もないのにね。
「わかった。」
「え…」
「仕方ないだろ!俺が見てても君はおおかた気を使うだろうしね。」
「そっか…。」
「なにさその辛気臭い顔。言っちゃ悪いけどさ、こんなの、分かりきってたよ。わかってたよ。ばーーか。俺だって、お人好しだって言われる俺だってね、そこまで馬鹿じゃねえよーだ。」
「ごめんね…。」
そう言って、頭を撫でてしまった。
「ほんと、いっぺんしんじゃえばか。」
涙を目に止めながら笑って、
私の手を振り払う恋人。
19歳の、私を愛した、さっきまで恋人だった君。君を選ばないで、振り向かない相手に恋をして。
一生独り身をうたった私。
誰も、幸せになんてなれない。
人を巻き込んで踏み台にして利用して、
誰も、誰も。