私情。
「もう、大丈夫。あーあ、泣く気なんてなかったのになあ。」
「そうだね、本当にごめんね。」
「もーう!笑ってよ…。俺は平気だから、君が幸せなら、本当にそれだけでいいんだから。」
「なに私なんか、なんで私なんか、」
「ねえ、空。君の本当の名前なんて、きっと彼も俺も知りはしないんだろうね。」
彼は、ポツポツと話し出す。
「俺は、君が空に溶けてしまいそうなくらい儚く見えたから、そしてその優しさがすごく大きく見えて、だから、空(そら)って名前をつけた。彼は君を、風香って呼んでた。」
「うん…?」
「儚くて弱そうに見えるのは、俺だけじゃなかったんだね。風の香りなんて、触れないものに例えるなんて。相当君の好きな人も脆いんだろうね。」
そんな風に、
もう友達にも戻れないだろうに、
君はそう笑った。
私にはそんな強さもない。
それは強さではなく弱さなのに、
なのになにも言えなかった。
抱きしめるのは簡単で、
そんなのはもう身をもって知っていた。
「わかんないや。でもね、きっと二度と愛されないし…ううん、今まで一度も彼には愛されたことはないんだけどね。なーんか、自惚れちゃってダメだね。」
直視するのは辛いから、
幸せそうに笑って顔を下に向けた。
メロンソーダを混ぜて、
会話から逃げようとする。
「昨日、その人と話した内容。聞いてた?」
「いや、全く…。正直、頭に入ってこなかったかな。」
「まあ焦って当然だもんね。」
「うーーん、」
「じょーうーだーんだよばか。から回るくらいギクシャクしても俺が辛いから!ね!ほら、笑ってよ。今は空なんだろ?」
「ん…」
「ああ!もう!本題にはいるね!?昨日の電話の内容さ。」