私情。
。
「もう…暗くなりそうですね。会った時は暑いくらいだったのに…」
「そう、ですね…」
彼女が口を開く。
散々泣いた後に気まずさが邪魔をした。
だけどうまく話せなくてもいい優しさが目の前にあった。
だから、
「またいつか。きっと命は巡り巡って別の形で。綺麗にめぐり合えると思います。」
そうとだけいって私は立ち上がって深々とお辞儀をした。
「そんなそんなそんな、頭をあげてください…」
慌てて立ち上がる彼女はやっぱり泣きたくなるくらい本当に根っからいい人だろうからそれがひどく悔しい気がして。
ニコッと笑って背を向けた。
「あ、あの!!」
一歩踏み出したところで声が私を引き止める。
「また…きっとまた会えますよね…?」
胸が、何故かチクンと痛んだ。
「…私、そんな風に言ってもらえるような人間じゃないです。亡くなった猫を見て涙を流せた。あなたはとても綺麗で…綺麗だと線を引くつもりは本当にないのに、なぜか、こんなにも胸が」
私は、無駄に正直なんだ。
だから、ずるい。
わたしの口からとめどなく溢れた苦しさとずるさを遮るように、
彼女はわたしに駆け寄って背後から抱きしめた。
「…?」
「わたしの名前は、鈴です。もしよければ、もしよろしければ、お名前をお聞かせ願えませんか…?」